月刊 老施協 2019年3月号

ニュース月刊老施協

社会保険を全体で回していく横断的な仕組みを

対談相手: 権丈善一 慶應大学商学部教授・内田芳明 全国老施協副会長

そのだ:地域に雇用を創出することも大きな狙いの一つであった公的介護保険制度ですが、20年経ち、人手不足が深刻化しています。

権丈:他の労働市場と競合しているのですから、これに勝つには相当待遇を改善しなければならず、予算編成のたびに削減のターゲットにされるようでは、問題が解消されるはずもありません。

そのだ:財政について抜本的な改革が避けられないというお考えですね。

権丈:介護保険者になる年齢を、40歳から下げなければならないのは明らかです。ただし、こう言うと、「サービスを利用しない人から保険料を取るのか」と声高に言う人たちが出てきます。

負担について理解を得る仕掛けとして、私は年金、医療、介護などの各保険制度が、自らの制度の持続可能性、将来の給付水準を高めるために、少しずつ拠出して子育てを支える「子育て支援連帯基金」という仕組みを考えています。国税のほうはプライマリーバランス(基礎的財政収支)を達成できないでいますが、社会保険の財源調達力は極めて強く、リーマンショックも乗り越えました。しかも規模が大きく、安定している。社会保険制度全体でお金をぐるぐる回していく、すべてを包括した国民的な社会保険の仕組みが必要だと思います。そして、こうした横断的な仕組みをつくろうとすれば、介護の被保険者だけ40歳以下が抜けていることや、年金では受給世代がこの仕組みに参加しないことが不自然に見えてくるはずです。

内田:介護保険制度の受益者は要介護の高齢者に限りません。たとえば、毎年10万人に上る介護離職が問題となっていますが、そうした人たちを支援することも可能になります。

権丈:介護保険は、本当は誰が受益者なのかよくわからないんですね。世の中には世代間の対立を煽っておけば得するとする人たちとかがいますけど、「高齢者のために勤労世代を犠牲にするな」という主張を真に受け、後押しすれば、高齢期を迎えたとき、痛い目に遭うのは自分たちです。私は「高齢者」という言葉を「高齢期」に切り替えようと提唱しています。こうすることで、若い人たちに、いずれ自分の問題になる時期が訪れることを意識してもらえると思います。

そのだ:対局的な見地からのご提言に感銘を受けました。

権丈:世界に例のない大きな仕掛けですが、老施協の皆さんにも応援して頂ければ面白くなります(笑)。

そのだ:我々も財政の問題について真剣に検討していきたいと考えています。ぜひ今後とも、何かとご教示ください。

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