月刊 老施協 2018年2月号

ニュース月刊老施協

介護事故のリスク管理は「記録」と「説明」が大切

長野佑紀弁護士(宮澤潤法律事務所)との対談

    そのだ:介護事故が紛争化し、訴訟になるのはどのような場合でしょうか。
    長野:転倒や転落、誤嚥などの事故が訴訟に至るのは、施設の自立支援や尊厳への取り組みがご家族に伝わっていないケースが多いと感じます。極端に言えば、身体拘束をすれば転倒事故を防げるわけですが、それでは自立支援や尊厳という理念に反します。
    そのだ:ご利用者の残存能力を引き出して自立支援を行おうとすれば、リスクが伴います。介護には、こうした相反する面があります。
    長野:普段からできるリスク管理のポイントは、「記録」と「説明」です。自分たちの施設では、事故防止、自立支援、利用者の尊厳のバランスをいかにとりながら、どのようなことに取り組んでいるか。それをきちんと説明できるようにするには、手間を惜しまず、記録することです。たとえば、当初の介護計画に従って自立支援を進めたところ、利用者の身体能力が向上したので介護計画を変えた。こうした場合、速やかに介護計画の変更を記録し、利用者側に変更の経緯を説明すべきです。そうしないと、紛争になった時、変更前の介護計画に沿った介護をしていないものとみなされ、施設側のミスと判断される可能性があります。多忙のなか、面倒かもしれませんが、詳細な記録と説明はご家族の安心、信頼感にもつながります。
    そのだ:図らずも事故が起きてしまったら、どのように対処すべきでしょうか。
    長野:初期対応が大切です。説明はきちんと調査したうえで行い、できないことは約束せず、迎合せず、隠さない姿勢が必要です。事故が発生したことを謝罪する際、施設側にベストを尽くした点があれば、その点についても併せて丁寧に説明してください。できれば事前に弁護士に相談してください。
    そのだ:施設利用者が中重度化し、介護職員が医療的ケアを行う機会も増えれば、問題も生じやすくなります。看取りや喀痰吸引を行う際、法的にしっかり守られていなければ、職員も不安を感じます。
    長野:ご指摘の通りです。緊急の場合、介護職員が医療行為に近いことをせざるを得ない場面もあるでしょう。以前、当時医療行為にあたるのではないかとの議論があった吸引器の使用について、その使用を怠ったとして施設側が敗訴したケースがありました。普段からさまざまな状況を想定しておくことが重要です。
    そのだ:全国老施協としてもこの問題にしっかり取り組んでいきます。今後ともぜひ力をお貸しください。

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