そのだ修光

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公正取引委員会の介護分野に関する調査報告書について

先日9月5日、公正取引委員会は「介護分野に関する調査報告書」を発表しました。

介護職員の低賃金の改善が事業者の大命題とされている一方「財政状況も厳しい中、介護報酬の大幅引き上げには限界がある」という大前提のもと、規制緩和により公正な競争環境を整備することで、介護保険に依らず事業者の収益を増やそうという考え方をしています。具体的には、介護保険対象サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する「混合介護」をより弾力的に運用できるようにすることや特別養護老人ホーム(以下「特養」)への参入規制の緩和などが提案されていました。

今回は特養の参入規制緩和についての私の見解を書きます。
私は特養の参入規制緩和について、明確に反対いたします。理由は、1.介護において、産業と福祉の棲み分けの議論がないままに第1種社会福祉事業の特養の参入規制緩和をすることの安易さ、2.社会福祉法改正により社会福祉法人格の公益性がより担保されるガバナンス体制に移行している、3.現行の法制度でも、社会福祉法人の認可をうけ、特養を設立する営利法人・医療法人の存在や、指定管理者制度による運用等が可能である、ということです。

特養は正式には介護老人福祉施設であり、【第1種社会福祉事業】に分類されています。
【第1種社会福祉事業】とは利用者への影響が大きいため、経営安定を通じた利用者の保護の必要性が高い事業(主として入所施設サービス)です。そして、経営主体は行政及び社会福祉法人が原則です。施設を設置して第1種社会福祉事業を経営しようとするときは、都道府県知事等への届出が必要になります。その他の者が第1種社会福祉事業を経営しようとするときは、都道府県知事等の許可を得ることが必要になります。個別法により、保護施設並びに養護老人ホーム及び特別養護老人ホームは、行政及び社会福祉法人に限定されています。

他方、【第2種社会福祉事業】とは比較的利用者への影響が小さいため、公的規制の必要性が低い事業(主として在宅サービス)で、経営主体に制限はありません。すべての主体が届出をすることにより事業経営が可能となります。

つまり、特養を運営するためには、より高い公益性を持っていると認可される法人が、ハードルの高い規制や指導監督を受ける必要があるのです。そもそも、特養を設置するためにも、土地を買い、建物を建て、補助金もほとんどなしの大きなハードルが課せられています。

このような大きなハードルが課されてきたのは、とりもなおさず、地域の高齢者福祉、公益活動を守るためにほかなりません。

熊本地震の際、特養はご利用者様だけではなく、地域の在宅介護者をたくさん受け入れていました。また、全国の特養から交代で介護スタッフが応援に向かいました。鹿児島では桜島の噴火警戒レベルが上がった時、災害協定を結んでいた鹿児島市の特養が島の特養入居者を受け入れました。なぜですか?それは、社会福祉法人は、地域の公益活動が義務であり、使命だからです。

どこまでを産業として捉え、どこまでを福祉として守るのか。
その棲み分けを明確にしないままに、参入規制を緩和するという、我々からすると突飛な改革案は、日本の社会保障制度の根本を揺るがしかねないと私は思っています。介護保険制度は、保険と言いながら、公費で5割まかなわれています。その意味も考えなければなりません。

先般、社会福祉法人は公益のために役になっているのか、というご指摘を受け、社会福祉法人改革が進んでいます。社会福祉法人は、より公益性の高い法人格として社会に貢献することを要請されています。

市場の失敗を踏まえ、公共の福祉を守るために、ガバナンスの効いた社会福祉法人に福祉を担ってほしいのか、それとも、市場原理を通じたサービス提供でいいのか、皆さんもよく考えてみてください。

また、他の法人に社会福祉法人格を持つなという制限はありません。営利法人でも、医療法人でも、指定管理者制度によっても、厳しく管理される社会福祉法人格を取れば、特養は運用できます。

公正取引委員会の課題意識である、特養の待機者が増えていると言いますが、実態は必ずしもそうではありません。有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅が供給されていることによって、実質的な待機者は減ってきています。また、特養の待機者は、個室ユニットが空いても多床室でないと入れない人たちがたくさんいることによる政策の失敗もあります。ミクロに実態を把握せずして、市場原理という大ナタを使えば介護保険によらない収益を増やせる、というのは机上の空論に過ぎません。

少子高齢化で日本の社会保障は待ったなし。
焦りがあるのもわかります。私も日々、どうすればいいのかと考えています。

しかし、規制改革をすればすべてが解決するといった神話を信じることは危険です。
地に足のついた議論を進めていきたいと思っています。